起業に憧れていても、友達にはなかなか言えなかった。高校生のころの自分を、そう振り返る高比良 廉さん。長崎大学で学びながら、スポーツに取り組む成長期の子どもたちに向けた事業を手がけています。
サッカーでの挫折から、起業という生き方との出会いへ。商品開発や仲間との挑戦を重ねるなかで、変わっていったのは、自分の思いを周りに伝える姿勢でした。長崎で事業をつくる理由と、その途中にある迷いや変化を聞きました。
サッカーの外にも 自分が活躍できる場所があった
—まず、今の活動と普段の学生生活について教えてください。
高比良:長崎大学経済学部の3年生で、F1TERという個人事業の代表をしています。スポーツをしている成長期の子どもたちに向けて、商品開発などに取り組んでいます。
最近は大学で受ける授業が少なくなってきたので、自分の商品を開発したり、部活動に関わる方とお話ししたりする時間が多いですね。感覚としては、学校が2割、自分の事業が8割くらいの生活です。
— 起業という道を意識したのは、何がきっかけだったんですか?
高比良:高校生まではサッカーをしていたんですけど、けがも多くて、途中で挫折を経験しました。もともと目立ちたがり屋なところがあって、自分が活躍できる場所を探していたのが最初だったと思います。
そのころに参加したのが、「高校生アントレプレナーシップゼミ」という起業体験のプログラムです。他の学校の人たちと一緒に、長崎の地域課題をビジネスで解決することを考えました。そこで、「起業という生き方があるんだ」「自分が活躍できる場所は、サッカー以外にもあるんだ」と知ったんです。
それまでは、起業は東京でするものだと思っていました。でも、地域の資源を生かして事業をつくったり、地域から世界を目指したりする人たちを見て、その生き方がすごくかっこいいなと。長崎から事業を立ち上げることに興味を持ち始めました。
— なぜ、長崎での起業にこだわるのでしょうか?
高比良:僕が最初に憧れた起業家の姿は、ゼロから一を生み出して、それが社会に影響を与えていくというものでした。
その後、東京や福岡の起業支援プログラムにも参加するなかで、同世代から「東京で起業するのがセオリーだよね」と言われることがあったんです。でも、僕にとって起業家は、世の中の固定観念を壊す人でもあったので、「なんでセオリー通りに動くんだろう」と違和感がありました。
地域は起業する土壌が整っていないと言われるけれど、本当にそうなのか。どんな資源があるのか。それを見つめ直して、自分なりに組み合わせて、新しいものを生み出す。そこにかっこよさを感じています。長崎へのこだわりには、そういう意地も半分あると思います。

最初に笑顔にしたい人を思い浮かべる
—事業のテーマに、子どもの栄養や身体管理を選んだのはなぜですか?
高比良:自分自身が、サッカーをしていたときに栄養や身体の管理がうまくできず、けがに悩んだ経験があるからです。僕がいたチームは身体管理を大切にしていたんですけど、それでも難しかった。支えてくれるコーチや保護者の負担も感じていました。
今、弟もサッカーをしていて、これから僕と同じような壁にぶつかるかもしれないと思ったんです。弟と昔の自分が重なるところがあって、その課題を解決できないかなと考えました。
高校生のころからイベントやビジネスプランコンテストに出るなかで、自分の原体験がないと、モチベーションが続かないと感じることもありました。だから、市場が伸びているかどうかよりも、まずは「自分が一番最初に笑顔にしたい人は誰だろう」と考えたんです。僕にとっては、スポーツをしている成長期の子どもたちでした。
—そこから、YOUTH CUBEはどのように生まれたんですか?
高比良:最初はハンバーグを作っていました。ハンバーグはみんな大好きだと思っていたので、成長期に不足しがちな栄養素を含んだものがあればいいなと。でも、ハンバーグが好きではない人もいるし、味の調整も難しくて、いろいろな壁がありました。
そのとき、母が普段言っていたことを思い出したんです。毎回宅配の食事にしたいわけでも、サプリメントを買えばいいという話でもなくて、根本には「自分でご飯を作ってあげたい」という思いがある。でも、毎日、栄養が十分な家庭料理を作るのは難しいですよね。
だったら、お母さんが作っているご飯は、そのままでいい。調理中に少し足すことで、不足しやすい栄養素を補えて、いつもの味や見た目も変えずに済むものができないか。その考えから開発しているのが、YOUTH CUBEです。

周りに話す恥ずかしさと チームで挑む難しさ
—起業に挑戦することに、ご家族はどんな反応でしたか?
高比良:家族の面では、すごく始めやすかったです。高校生のときのプログラムも、父から「参加してみない?」と声をかけてもらったのがきっかけでした。
両親は教員なんですけど、起業家という生き方についても、「そういう世界を知ったほうがいいよね」と受け止めてくれました。僕が興味を持って取り組むことを歓迎してくれて、時間もお金も使って支えてくれたなと思っています。
—友達にも、起業したいという気持ちを話せていたのでしょうか?
高比良:最初は、なかなか言えなかったです。高校生のときは受験が早く終わったので、そのあと「起業家ノート」のようなものを作って、授業中に隠れて勉強していました。
それを友達に見られるのは、すごく恥ずかしかったですね。「意識高い」と言われるのが嫌だったんです。起業家の生き方がかっこよくて、自分もこうなりたい。ただその憧れでやっていたので、周りに話すことへの恥ずかしさがありました。
—挑戦を続けるなかで、どんな壁がありましたか?
高比良:やりたいことを形にするには、一人ではできないと感じていたので、大学に入ってからは、同じように起業やビジネスを勉強したい仲間と活動を始めました。
大学1年生のときはビジネスプランコンテストにたくさん出たんですけど、ボコボコにされて。高校生のころから起業を学んでいたぶん、「自分のほうが早く始めたはずなのに、なんで負けたんだろう」と、すごく悔しかったです。
チームのなかでも、「来年度も難しかったら、一旦やめない?」という話が出ていました。仲間が離れてしまう寂しさもあったし、一人でやれるのかという葛藤もありました。
それでも、「まずはここを一緒に作ってみよう」と動いてみたら、コンテストで賞をいただいて。それが次のモチベーションになりました。まず形にするところまではやってみよう、という思いで続けたことが、今、次の段階に挑戦できる状況につながっていると思います。

発信することで 周りの環境が変わっていく
— 一歩踏み出す前と今で、自分の何が一番変わりましたか?
高比良:一番は、オープンに自分のことを発信できるようになったことです。最初は、自分一人で進めることや、自分でゼロから一を作ることにこだわりすぎていました。
同級生にはどうせ理解してもらえないだろうとか、大人にアドバイスをもらうのも、ある程度形にしてからだろうとか。すごく閉じた考え方をしていたんです。
今は、やっていることや進み具合だけでなく、「今、こんなにいっぱいいっぱいです」という状態も発信するようになりました。振り返ると、そこは大きく変わったと思います。
— 自分の状況を伝えるようになって、周りの反応も変わりましたか?
高比良:「一緒にこういうことをやってみない?」という相談をいただくようになりましたし、「こうしたほうがいいよ」とアドバイスしてもらうことも増えました。
同級生も、いざ話してみたら、「一緒にやらせてほしい」とか、「自分もこういうことをやってみたいんだけど、どう思う?」と声をかけてくれたんです。
自分から発信していくことで、周りの環境を良くしていけるんだと感じるようになりました。環境そのものが急に大きく変わったというより、自分で周りとの関係をつくっていく力が、前よりついたのかなと思います。
長崎から 子どもの可能性を広げていく
— 今は、どんなことに挑戦しているのでしょうか?
高比良:商品を届けたい相手と、もっと対話しないといけないと感じています。これまでは身近な人へのインタビューや試食が中心だったんですけど、今は町のクラブチームや市とも協力して、関わる人を広げています。
補助金もいただきながら、実際に食べてもらったり、一緒にイベントを開いたりしています。使ってくださるかもしれない方が何を必要としているのか、この商品がその課題に合っているのか。それを確かめる取り組みを進めている段階です。

— その先に、どんな未来をつくりたいですか?
高比良:YOUTH CUBEには、正直、愛着があります。でも、この商品を一生続けたいということだけではないんです。
根本にあるのは、住んでいる地域や所属するチーム、家庭環境に左右されずに、どの子も成長できて、身体管理に取り組める環境をつくりたいという思いです。だから今は、成長期の子どもたちを取り巻く状況をしっかり見ています。そのなかで、YOUTH CUBEが必要だと分かるかもしれないし、別のサービスが必要だと分かるかもしれません。
まずは長崎で、必要とされるものを確かめて、事業の土台をつくりたい。そのうえで、他の地域にも展開できるようにしたいと思っています。いろいろな地域で事業の形をつくれること、地域からでも社会に大きな影響を与えられることを、自分の挑戦を通して示していきたいです。

高比良 廉
F1TER代表
長崎大学経済学部3年生。高校時代に起業体験プログラムへ参加。サッカーでのけがや身体管理の難しさを経験したことから、スポーツに取り組む成長期の子どもたちに向けた事業に取り組む。YOUTH CUBEの商品開発と、利用者のニーズを確かめる活動を進めている。
※所属・学年・活動状況は取材時点のものです。インタビュー内容は、発言の趣旨を変えない範囲で整理・再構成しています。